大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和23年(れ)1410号 判決

主文

原判決中被告人滝口寛に對する部分を破棄し同被告人に對する殺人幇助並びに銃砲等所持禁止令違反被告事件を仙薹高等裁判所に差し戻す。

爾餘の被告人の本件各上告を棄却する。

理由

辯護人堂野達也の上告趣意第一點について。

しかし銃砲等所持禁止令第二條所定の犯罪は、銃砲等を所持するによりて直ちに成立するもので、積極的に法定の除外事由あることは、その犯罪の成立を阻却する事由たるに過ぎないものである。されば同條の積極的犯罪要件たる罪となるべき事実は單に銃砲等を所持する事実に過ぎないものといわねばならぬ。從って原判決が判示拳銃及び刀劍の携行を吉田明、林清之助を殺害する目的に出でたる所持なりと判示しただけで特に法定の除外事由なくしてと判示しなかったからといって所論のように罪となるべき事実を判斷しない違法ありということはできない。そして前述のごとく法定の除外事由たる所論銃砲等所持禁止令第一條第一項の除外例は、法律上犯罪の成立を阻却すべき事由と解すべきであるから原審においてかゝる事由ある旨の主張のない本件においては、原判決がこれにつき特に判斷を示さなかったからといって所論の違法ありといえない。論旨はその理由がない。

同第二點について。

原判決が被告人滝口寛に對する判示第四の(イ)及び(ロ)の事実認定の證據として佐藤トミヨに對する司法警察官の聽取書を採用したこと並びに原審において同被告人の辯護人より右トミヨを證人として申請したにかかわらずこれを却下して取調をしなかったことはいずれも所論のとおりである。そして刑訴應急措置法第一二條第一項によればかかる聽取書につき被告人の請求があるときは、その供述者を公判期日において、訊問する機會を被告人に與えなければ但書の場合の外これを證據とすることができないものである。しかるに、原審においては、右トミヨの聽取書につき同被告人に對し特にかかる請求を爲し得べき旨の告知を爲すことなく、また、同被告人においても特にかゝる請求を爲さざる旨の意思表示をしなかったのであり、しかも前記辯護人の證人申請理由につきては原審公判調書その他一件記録上何等知ることができないのであるから、反證のない本件においては前記辯護人の證人申請は、聽取書の供述者たる同證人の訊問を請求したものと認めざるを得ない。そして本件においては、前記但書の場合に該當することも認められないから原判決が同證人に對する聽取書を證據としたのは右措置法の規定に違反したものといわねばならぬ。しかも原判決は右證人の聽取書を他の證據と綜合して被告人寛の判示第四の事実を認定したのであるから右違法は同事実全部の認定に影響を及ぼすこと明白であり、從って本論旨はその理由があって同被告人に對する原判決の部分は破棄を免れない。

同第三點について。

しかし、(中略)供述記載中に括弧を施し(殺して仕舞う)又は(殺す)とあるのは、反證のない限り供述者自身が特に釋明陳述したものと認むべきもので、これを以て警察官が恣に記入したものとはいえないから、所論(二)の供述記載に關する論難はこれを採ることができない。(下略)

同第六點について。

しかし、一件記録を見るに、第一審檢事は被告人阿部健治に對し少年法を適用すべきものとして懲役四年以上七年以下の求刑を爲し第一審判決もその見解を容れ同被告人を同一刑に處したのであるが附帯控訴權を有する原審檢事は同被告人に對し單に懲役五年を求刑し原判決もその檢察官の求刑通り懲役五年の判決をしたものであること明白である。そして控訴審における檢察官の附帯控訴は辯論の終結に至るまで自由にこれを爲し得るものであり、しかもその方式については何等の制限規定も存しないのであるから前記のごとき經緯の原審檢事の求刑は附帯控訴をしたものとも見ることができる。されば同一被告人に對し言渡された少年法による不定期刑と成年に達した後の宣告刑との輕重を比較する場合において、假りに所論のように不定期刑の短期を標準とすべきものとしても本件における原判決には舊刑訴第四〇三條に違反する不法はないものといわねばならぬ。本論旨もその理由がない。(その他の判決理由は省略する。)

よって被告人寛に對しては舊刑訴第四四七條第四四八條の二に從い爾餘の各被告人に對しては舊刑訴第四四六條に從い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 齋藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 岩松三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例